組織的知識創造とは、「組織成員が創り出した知識を、組織全体に広め、製品やサービスあるいは業務システムに具現化する組織全体の能力」のことです。組織的知識創造においては相補的な関係にある「形式知」と「暗黙知」の相互作用が鍵であるとともに、その相互作用が繰り返し起こるスパイラル・プロセスであるとされています。
「形式知」は、形式的・論理的言語によって伝達できる知識であり、「暗黙知」は特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他者に伝えたりすることが困難な類の知識です。
たとえば大学教員個々がもつ教授や学生指導に関する知に着目すると、教室や研究室といった特定の状況や文脈の中で活動が行われ、かつ個人の知識・経験がその活動の基盤となる傾向が大きいことなどから、暗黙知の占める割合が大きい知であるといえます。
優れた教育・研究活動の「言葉にできないコツ」をいかに外化(見える化)し組織内で共有するかが、とくにミクロレベル(個々の教員による授業・教授法の開発)のFD活動においては大きな課題であるといえます。
出典:井上史子、土持ゲーリー法一、安岡高志「知の共創サイクルを推進するファカル ティ・ディベロップメント」大学教育学会第33回大会発表要旨集録、pp.246-247、2011
野中らは、知識が形式知と暗黙知の社会的相互作用を通じて創造されるという考えにもとづき、 (1)個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する「共同化(Socialization)」、(2)暗黙知から形式知を創造する「表出化(Externalization)」、(3)個別の形式知から体系的な形式知を創造する「連結化(Combination)」、(4)形式知から暗黙知を創造する「内面化(Internalization)」の、4つの知識変換モードを提案しています(図は筆者が参考文献をもとに作成)。
参考:野中郁次郎、竹内弘高、梅本勝博訳『知識創造企業(第14版)』、東洋経済新聞社、2002
本研修では、「知」を静態的な「価値のある情報としての知識」 だけでなく、動態的な「行動と融合した使える知識 (知恵)」と、「知恵を最適な形で活用できる人の意識(知心)」を含む総合的なものとして捉えています(図は筆者が参考文献をもとに作成)。
参考: 高梨智弘 『知の経営‐透き通った組織』、白桃書房、2009